サプリメントはあなたに何をもたらすのか?

2022.10.15

突然ですが、あなたは「サプリメント」にどのような印象を持っていますか?
積極的に活用していて飲み忘れるとその1日何となく身体が重く感じる、といった肯定的な印象を持っているかもしれません。
あるいは、友だちに勧められて飲んでみたけど全く効果が実感できなかった、といった否定的な印象を持っているかもしれません。
はたしてサプリメントはプラシーボ効果(偽薬効果:薬ではないものを薬だと信じて飲めばその効果が得られること)しか期待できないものなのでしょうか?
近年ドラッグストアには多種多様なサプリメントが並んでいます。
それでもまだ日本にはサプリメントに否定的な人が多く、サプリメント市場自体もアメリカから20年遅れをとっていると揶揄されることもあります。
オリンピックに出場するようなトップアスリートでは、日本代表選手は80%以上が活用、アメリカ代表選手では90%以上が活用していると言われています。
意図せず禁止物質が入っていてドーピング違反にならないよう口に入れるものに細心の注意を払うトップアスリートであっても、サプリメントの効果を期待して活用しているのです。
実際のところ、サプリメントとはどのように付き合えばいいのでしょうか?
そこで今回はサプリメントをテーマにお話ししてみたいと思います。

「科学的に正しい」の罠

近年さまざまな場面で「科学的に正しい」という言葉を見聞きするようになりました。
体罰によるスポーツ指導が問題とされるとき、よく「科学的に正しい」という言葉が出てくるので、あなたも見聞きしたことがあるのではないでしょうか?
アスリートへの体罰による指導が告発されて問題になると、体罰による指導は古い、時代錯誤だ、今では「科学的に正しい」方法が確立されているのだ、という一連のやりとりがなされます。
2018年に体操の日本代表候補選手に対するコーチの体罰が明るみに出たときもそうでした。
でも、よく考えてみてください。
体罰による指導を受けてきた選手は日本代表候補であり、「科学的に正しい」方法で指導を受けてきた選手と代表入りを懸けて接戦を演じているという事実があることを。
この事実からわかるのは、「科学的に正しい」方法は、古くて時代錯誤な体罰による指導を凌駕するほど優位ではないということではありませんか?
誤解のないように言いますが、もちろん体罰による指導を肯定しているわけではありません。
そうではなく、「科学的に正しい」という言葉がスケープゴート(逃げ道)として使われているということです。
現に「科学的に正しい」と言われてしまったら、ほとんどの人がその科学に精通していないので反論できなくなりますよね。
その科学が、どのような実験で、どのような結果が得られ、それをどのように解釈したのかなんて一般の人にはわからないですし、おそらく「科学的に正しい」と言っている人でさえもそこまで精通しているわけではないのです。

正反対の「科学的に正しい」結論

そしてもう一つ気を付けなければならないのは、本当に「科学的に正しい」事柄であったとしても、切り口によって全く別の結論になることがあるということです。
例えば、たんぱく質(プロテイン)について考えてみましょう。
たんぱく質は体重1㎏当たり1g必要(激しいトレーニングを行う人を除く)と言われており、体内に貯蓄できません。
そのため昨日20g多く摂ったから、今日は20g少なくするということをしてしまうと、筋肉や骨など体の大切な部分を壊して取り出さなければならなくなってしまいます。
毎日食事でたんぱく質を必要な量摂取するのは大変、そこでよく活用されるのがプロテインです。
トレーニングに励んでいる人は、よくホエイプロテイン(動物性たんぱく質)を推します。
アミノ酸スコアが優れているものが多く、たんぱく質の含有量も多いのが特徴です。
しかしホエイプロテイン(動物性たんぱく質)は、不自然に多くのたんぱく質が入っているため消化器官へのダメージが大きい、身体の老化を促進するといった負の側面も主張されています。
それでは、ソイプロテイン(植物性たんぱく質)はどうでしょう?
ソイプロテインの原料である大豆には、エストロゲン(女性ホルモン)と化学構造・働きが似ている大豆イソフラボンが含まれており、女性の美しさを維持増進し、身体を老化させる心配もありません。
しかしアミノ酸スコアが低くなる(実際は添加して100にする)ことが多く栄養の吸収効率が悪い、たんぱく質の含有量が動物性たんぱく質より劣るといった側面があります。
それでは、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質を混ぜたら、両者のメリットを享受し、かつデメリットを補完できるのではないか、と思うかもしれません。
しかしインドの生命科学アーユルヴェーダでは、異なる種類のたんぱく質を混ぜて摂取することを避けるべきであると教えています。
このように、「科学的に正しい」事柄もその切り口によって、いかようにでも主張を変えることができてしまうのです。
「科学的に正しい」の裏側にあるものを読み取ることが、いかに重要であるかをご理解いただけたでしょうか?

従来の栄養学が抱える問題とは?

さて、ここからが本題です。
なぜ「科学的に正しい」言説に触れたかといえば、今回のテーマであるサプリメントについて、栄養学と称する学問体系の中でもその位置づけが全く異なる、それぞれが主張する「科学的に正しい」が相容れないものであるからです。
従来の栄養学では、いかなる栄養素も原則として食べ物から摂取すべきであり、サプリメントは食べ物だけでは補い切れないときに限って活用すべきとしてきました。
それどころかサプリメントの中にはその効果が実証されていないものもあると、否定的な立場をとる人が少なくありません。
ここまで読んできたあなたであれば、「効果が実証されていないこと」と「効果がないこと」とは別であることはおわかりいただけますよね。
厚生労働省では、「健康な個人及び集団を対象として、国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防のために参照するエネルギー及び栄養素の摂取量の基準を示す」※1 ことを目的として、5年ごとに「日本人の食事摂取基準」を公表しており、その基準の中で栄養素の推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量、目標量の5種類の指標を提示しています。
 推定平均必要量:50%の人が必要量を満たす量で、科学的に根拠があるもの
 推奨量:ほとんどの人が必要量を満たす量
 目安量:特定の集団において不足状態を示す人がいない量
 耐容上限量: 過剰摂取による健康障害を未然に防ぐ量
 目標量:生活習慣病の発症及び重症化予防のために現在の日本人が当面目標とすべき量
ちなみに、これらの指標がどのように算定されているかご存じですか?
日本人の食事摂取基準では、これらの指標について、ある限られた性及び年齢の者において観察されたものを統計的な処理を行い算定していると説明しています。
つまり、ほとんどの数値が理論上の数値であるということです。
このことは、「エネルギー及び栄養素の「真の」望ましい摂取量は個人によって異なり、個人内においても変動するため、「真の」望ましい摂取量は測定することも算定することもできず、その算定及び活用において、確率論的な考え方が必要となる」※1 という基本的な考え方にも表れています。
このように理論上の数値、統計的な計算式を用いて導き出した数値であることを知って、その信憑性を疑う人もいるでしょう。
食事摂取基準で示す指標は、欠乏とならない栄養素の量を表しているのです。
そのため、従来の栄養学は、「欠乏の栄養学」と称されることもあります。
1日分の野菜がとれる、1日分の鉄分配合といったことを謳う商品は、このような指標に基づき、欠乏とならないための栄養素を提供しているのですね。
これが従来の栄養学の限界であると言えるでしょう。
つまり個体差を考慮して身体機能を最大化する類いのものではなく、欠乏にならないようにする守りのスタンスだということです。
あなたにとって最適な水準を提供してくれているかもしれないし、全く最適な水準に達していないのかもしれないのです。

異端の栄養学とされてきた分子栄養学の神髄

近年注目を集めている栄養学が、オーソモレキュラー(分子整合栄養医学)、日本では一般的に「分子栄養学」と呼ばれているものです。
従来の栄養学と分子栄養学では、その基本的な姿勢が大きく異なります。
その主要な違いの一つが、分子栄養学では身長や体重、体質といった「個体差」を考慮に入れている点です。
従来の栄養学が測定・算定できないとしていた個体差を、分子栄養学ではどのように考慮しているのでしょうか?
分子栄養学では、ある栄養素が100㎎で十分な人もいれば1000㎎以上必要な人もいる、その個体差を考慮した至適量と組み合わせが重要であるとしています。
「メガビタミン」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
これは大量のビタミンもしくは至適量のビタミンを意味しています。
栄養素は量とその効果が比例するものではなく、一定程度の量に達するまでその効果はほとんど得られず、ある量に達した途端に大きな効果が得られる、そのときの量が至適量です。
そのため自分の至適量がわからないときは、大量に摂取をしてみて、効果が感じられたら徐々に量を減らし、効果が感じられなくなるギリギリにするという方法で特定することが考えられます(もちろんその日の体調によっても多少量が変わる可能性があるため、あくまでも目安になります)。
このような至適量を得るためには、やはりサプリメントの活用が欠かせません。
そのため、分子栄養学ではサプリメントを積極的に活用すべきというスタンスをとります。
そしてもう一つ、分子栄養学の大きな特徴は、分子整合栄養「医学」と言われるように栄養を治療に用いるという点です。
欠乏の栄養学では、身体機能を維持するために必要な栄養素を摂取することを目的にしていますが、分子栄養学では大量に摂取することで治療に用いることができる、つまり薬理作用(薬を服用するのと同等の作用)を期待できるとしています。
分子栄養学が批判の対象となっていた一因がここにあります。
従来の栄養学においては「耐容上限量」を指標の一つとしているように、過剰に摂取するのは危険であるとしています。
一方分子栄養学では、そもそも個体差が大きく栄養素が大量に必要な人がいる、かつ少量では得られない薬理作用が働くのであり、栄養素を大量に摂取したことによる死亡事故は過去に一度も起こっていない、と主張しています。
分子栄養学が一般的に受け入れられてきた近年、このような主張が認められるようになってきたのかもしれません。

それでもやはりバランスは大切

いかがでしたでしょうか?
今回は従来の栄養学と分子栄養学の観点から、サプリメントについてお話ししてきました。
サプリメントを積極的に取り入れることの意味をご理解いただけたと思います。
しかし、やはり大切なことは栄養素のバランスをとることです。
分子栄養学でもオーケストラの原則、つまりすべての栄養素が協調して働かなければ効果が得られないことを強調しています。
サプリメントを活用していても、糖質の多い食事やジャンクフードばかりを食べていたら上手く機能しないのです。
サプリメントの活用とともに普段の食事を見直してみましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>
・エイブラム・ホッファー、アンドリュー・W・ソウル、中村篤史訳、オーソモレキュラー医学入門、論創社、2019
・星真理、アスリートのための分子栄養学、体育とスポーツ出版社、2014
・厚生労働省、日本人の食事摂取基準 総論、https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586555.pdf、2021年4月15日閲覧