個を活かす生命の科学「アーユルヴェーダ」(実践編)

2023.01.20

前回は、「アーユルヴェーダ」の理論についてご紹介しました。

わたしたち一人ひとり違う存在であることを重視したアプローチが「アーユルヴェーダ」でしたね。 今回はアーユルヴェーダの実践編として、日常生活に活かすための健康法を「運動」、「栄養」、「休養」の観点からご紹介したいと思います。

アーユルヴェーダから見た「運動」

定期的に適度な運動を行うことが健康に役立つということはこれまでの記事でもご紹介してきましたが、これはアーユルヴェーダでも同じことが言えます。

アーユルヴェーダでは、定期的に適度な運動を行うことが、消化器官や代謝機能を健全な状態に保つとし、「消化(アグニ)」を高め、老廃物を体外へと排出し、筋肉をしなやかに柔軟にするとされています。

水泳、ウォーキング、ジョギング、ストレッチ、ヨガなどのいわゆる「有酸素運動」はどの体質の人にも共通して良いとされ、3つのドーシャ(ヴァ―タ、ピッタ、カパ)のバランスを整えることができます。

(アーユルヴェーダの教材では、よくヨガの太陽礼拝のポーズをオススメしているので、ぜひYoutubeなどで「太陽礼拝」と検索してみてください。)

これらの運動は朝の時間帯に行うことで、夜の睡眠にも良い影響をもたらしてくれます。

ダイエットの観点からも、朝食前に軽い有酸素運動を行うのが良いでしょう。

食事直後の運動は、消化に悪影響をきたしてしまうため、基本的には避けるようにしましょう。

アーユルヴェーダでは、激しい運動は推奨されず、“能力の半分の量の運動”をするべきだとされています。

これは1時間の運動で疲れが溜まるのであれば、運動は30分以内にするべきといったことを指します。

以前の記事でご紹介したRPE(主観的運動強度)の4(楽である(1日中でも行える))~6(ややきつい(きついと感じ始める))を目安に長時間にわたらない運動にしても良いかもしれません。

最適な運動量は人それぞれですが、過度の運動はヴァ―タを増加させ、3つのドーシャバランスを崩してしまいます。 また、どのような運動をしたら良いかは、その人の体質に合うかどうかを考慮することも必要です。

ヴァータ(風+空)

ヴァ―タの人は、「極端」「不規則」といった特徴があります。

スプリントを必要とするような極端に激しい運動を好み、体力の限界にチャレンジするようなことも多いと思われます。

先程お話ししたように、激しい運動はヴァ―タを増やし、3つのドーシャバランスを崩してしまい、結果として病気やケガをしてしまうこともあります。 ヴァ―タ体質の人は、規則的な軽い運動を心がけるようにしましょう。

ピッタ(火+水)

ピッタ体質の人は、「鋭い」「熱い」といった特徴があります。

球技をはじめとした相手と対峙して勝敗を決めるようなスポーツを行うと、勝利至上主義に陥りがちになります。 ピッタ体質の人は、熱さを鎮めるような「冷たい」性質を持ったマリンスポーツやウィンタースポーツに取り組むのが良いとされます。

カパ(水+地)

カパ体質の人は、「重い」「遅い」といった特徴があります。

運動自体を好まない人が多く、運動習慣を身につけるためには、文字通り重い腰を上げる必要があります。 カパ体質の人は、やや激しめの運動を行うことによりヴァ―タを高め、運動に対するモチベーションを向上させることができるでしょう。

アーユルヴェーダでは、マッサージも消極的な「運動」とされています。

マッサージというとお店で受ける本格的な施術をイメージされる方も多いかもしれませんが、自宅でできるセルフマッサージで構いません。

「太白ごま油」(アレルギーのある人は「ココナッツオイル」)をマッサージオイルとして準備します。

静かなで温かい環境を整え、リラックス状態をつくりましょう。 全身マッサージを行うことがベストですが、「足の裏」、「耳」、「頭部(頭・顔)」の3点を行うと全身マッサージと同等の効果がありますので、忙しいときは部位を絞ってマッサージしてみましょう。

アーユルヴェーダから見た「栄養」

アーユルヴェーダの中で特に重要視されているのが栄養、つまり食べ物です。 アーユルヴェーダの医学書である『チャラカ・サンヒター』では、食べ物に関して8つのポイントを挙げています。

1.食べ物の本来の性質

すべての食べ物には、われわれのドーシャに影響を与える何らかの性質があります。

「軽い⇔重い」、「液体・油性⇔乾燥」、「熱い⇔冷たい」がその典型的な3つの対照的な性質です。

この性質を利用して、例えば、身体が冷えやすいときには「熱い」性質を持った食べ物、乾燥しやすいときには「液体・油性」の性質を持った食べ物を摂ることにより、改善を図ることができます。 このような効果は、一定期間食べ続けることで実感できるため、習慣として取り組んでいくことが大切です。

2.食べ物の性質を変える

食べ物の本来の性質は、調理法によって変えることができます。

例えば、「冷たい」性質を持った食べ物に熱を加えることにより「熱い」性質にしたり、「乾燥」の性質を持った食べ物を油で炒めることにより「液体・油性」の性質にしたりすることができるのです。 しかし、食べ物の性質を変えられるからといって、添加物を含んだ加工食品や電子レンジを要する冷凍食品のような人工的なものは、食べ物の生命力(プラーナ)を減少させ、わたしたちの未消化物(アマ)が増えたり、精気を衰えてさせてしまったりするので注意が必要です。

3.食べ物の組み合わせ

以前の記事でもご紹介させていただきましたが、何を食べるかと同等あるいはそれ以上に何と一緒に食べるか(食べ合わせ)はとても大切なのです。

食べ合わせが悪いと消化器官に負担がかかり、消化(アグニ)が悪くなったり、上手く消化ができず未消化物(アマ)が増えてしまったりするのです。

一般的なルールには、以下のようなものがあります。

・エネルギーの性質が異なる食べものを一緒に食べない(例:ミルク(冷たい性質)―魚・肉(熱い性質))。

・生のものと調理されたものを一緒に食べない(生の食べものは消化しにくい)。

・フルーツは他の食べ物と一緒に食べない(フルーツだけで食べる)。 ・種類の異なるたんぱく質(例:肉―チーズ)を一緒に食べない。

4.食べ物の量

適切な食べ物の量は、その人の消化能力に左右され、その消化能力はその人の体質によって左右されます。 ヴァ―タ体質の人は、少食かつ不規則になりがちで、消化も不安定になることが多いでしょう。

カパ体質の人は、過食になりがちで、消化に長い時間を必要とします。

ピッタ体質の人は、高い消化能力を持っていますが、熱く辛い食べ物を好む傾向があり、消化活動も多くなりがちです。

年齢、運動習慣、仕事、季節、食事の時間帯などの要因も少なからず適切な食べ物の量に影響しますが、いずれにしても食べ過ぎても食べなさすぎても良くないことは言うまでもありません。

アーユルヴェーダでは、1回の食事あたり「固形物は胃の容量の1/3~1/2、液体は1/4~1/3」とされており、1/4か1/3の余裕を残した方が良いとされています。

腹八分目とよく言われますが、アーユルヴェーダでは「腹6割6分~7割5分」くらいが推奨されているのですね。 自分の身体のシグナルを感じ、調整しながら、あなたの最適な量を見つけましょう。

5.食べ物の生育環境

食べ物の生育環境は、食べ物の性質そのものに大きな影響をもたらします。

自然で肥沃な大地で育った作物は、化学肥料などで育った作物より、やはり健康への寄与は大きくなります。

化学物質は、消化(アグニ)のはたらきを弱め、未消化物(アマ)を増やしてしまうでしょう。

また文明が進んで時間距離が近くなったことにより、世界中のあらゆる地域から食べ物を入手できるようになり、まったく生育環境が異なる食べ物が同じ食卓に並ぶことも少なくなくなりました。

温かい地域で生育した食べ物と寒い地域で生育した食べ物を一緒の食卓に並ぶということは、近代以前にはなかったことでしょう。

加工技術や保存技術、輸送技術がない時代は、物理的に近く、狭いエリアで生育した食べ物しか同じ食卓に並ぶことはなかったはずです。

そのため、生育環境の異なる食べ物を一緒に食べるのがよいのか、検討することが必要になるでしょう。

このほか住んでいる地域の天候なども、食べ物を選ぶときに考慮すべきことです。

ヴァ―タは「高地・小雨地帯・風が吹く場所」、ピッタは「日光」、カパは「平地・低温多湿地帯」でそれぞれ強くなります。

6.季節と時間

季節や時間といった外部要因も食べ物に影響してきます。

ヴァ―タは5月15日~11月14日、ピッタは6月15日~1月14日、カパは1月15日~6月14日に影響を持ち、各期間の中ごろにそれぞれピークが訪れます。 これらの性質はピークに達するまで徐々に増加、ピークに達すると徐々に減少していくのです。

7.食べ物の一般的なルール

あなたの体質に合っていること、消化吸収に良いこと、身体を健やかに育むこと、さらには満足感をもたらすこと。

これらすべてを網羅する食べ物が理想的だと言えます。

一人ひとり違う体質のため一般化することは難しいですが、以下のようなルールを基に食べ物を考えると良いでしょう。

・自然な空腹を感じたときだけ、食べるようにする(空腹を感じなければ食べない)。

・胃の中に前の食事が残った状態で、次の食事をしないようにする(1食当たりの量を減らし食事の回数を増やすダイエットを行っている人は注意が必要)。

・消化(アグニ)のはたらきを阻害するため、大きく感情が動いたときには食べないようにする(ポジティブ、ネガティブを問わず)。

・食べ合わせのルールを守る。

・過食や絶食のような極端な食事法は避ける。

・調理の不備(火が通っていない、焦げついているなど)があるものは食べない。

・未熟または熟しすぎたフルーツを食べないようにする。

・残り物や再加熱のものを食べないようにする。

・食べることにフォーカスする(ながら食事を避ける)。

・満腹感が得られたら、無理して食べるのはやめる。

8.食べ物摂取についての個人差

さまざまな視点で食べ物について検討すると、これまでの食生活を変える必要が出てくることがほとんどです。

しかし、今まで食べていたものを完全に絶ち、今まで食べていなかったものだけ食べるといった極端な変化は、身体が適応できない可能性もあるため避けるようにしましょう。

習慣化の観点からも、できることから少しずつ変えていくことが大切です。

なんとなく調子が良くなった、ガスが溜まってお腹が張るといった身体の声に耳を傾けながら、徐々に調整していくようにしましょう。

アーユルヴェーダから見た「休養(睡眠)」

休養を考えるに当たって、最も大切なのは「睡眠」です。

アーユルヴェーダでは、睡眠の観点で最も重要視しているのが、その日一日の食べ物、出来事を完全に消化するということです。

つまり、食べ物が胃の中に残った状態にしないこと、その日抱いた恐怖や不安といったものを取り除いておくことが重要だということです。

「寝たら忘れる」という人もいますが、さまざまな感情を抱いた状態で睡眠に入るのは好ましくないのです。

感情への対応をどうするかについては、以前ご紹介した「Think on Paper」、つまり考え事や不安・恐怖をすべて紙に書き出すこと、そして瞑想などが役に立つでしょう。

寝具を清潔に保つ、照明を柔らかい光のものにする、安らぎの音楽を流すなど、睡眠環境を整えることも大切です。

寝つきが悪いときでも、テレビを見たり、スマホをいじったりするのではなく、ベッドに入って安静にすることを心がけましょう。

どうしても眠れないときは、一旦ベッドに座る姿勢になって深呼吸をするのがオススメです。

逆腹式呼吸(息を吸うときにお腹をへこませ、息を吐くときにお腹を膨らませる呼吸法)を取り入れることで、副交感神経を優位にし、よりリラックスすることもできます。 睡眠や夢にも3つのドーシャが関係しているとされ、見る夢のタイプが変わるのはドーシャの乱れとされています。

ヴァータ(風+空)

ヴァータ体質の人は、神経組織を回復させるために十分な睡眠を必要としているので、夜ふかしを避けるようにしましょう。

落ち着かなくなかなか寝つけなかったり、午前2~4時の間に頻繁に目が覚めたりするのは、ヴァータが多すぎることが原因だと考えられます。

ヴァ―タ体質の人は、活動的な夢や恐怖を感じる夢が多いとされています(空を飛ぶ夢、高いところから落ちる夢、何かから走って逃げる夢など)。

ピッタ(火+水)

ピッタ体質の人は、比較的寝つきが良く、熟睡することができるので、他の体質の人よりも少ない睡眠時間でも十分に回復できることが多いようです。

真夜中頃に目が覚めるのは、ピッタが増えていることが関係していると思われます。

ピッタ体質の人は、暴力的な夢、闘争する夢、怒りの感情が湧くような夢を見ることが多いとされています。

カパ(水+地)

自然と眠気がやってくる夜の時間は、カパの時間だとされています。

カパ体質の人は、昼寝や朝寝ることを避けた方が良いでしょう。

睡眠をとりすぎると、カパが増えます。

カパが多くなってくると、寝つきが良くても目覚めが悪いということになりかねません。

カパ体質の人は、穏やかで静かな海や湖などの夢を見ることが多いでしょう。

あなたの生活にアーユルヴェーダを取り入れよう!

今回は、前回に引き続きアーユルヴェーダについてご紹介しました。

もしあなたが初めてアーユルヴェーダに触れたのであれば、これまでの健康常識とは違った視点から生活を見直すことができたのではないでしょうか。

近年、欧米でも健康的な食生活として日本食を取り入れたり、マインドフルネス瞑想が流行したりと、東洋の文化が見直されるようになってきました。

東洋のいにしえの叡智であるアーユルヴェーダを取り入れて、あなたに合った生活スタイルを築き上げましょう。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<参考文献>

・ジュディス・H・モリスン著、森田由美子訳、『本当に自分を取りもどすアーユルヴェーダ 新装版』、ガイアブックス、2014

・アカリ・リッピ―、『アーユルヴェーダが教える せかいいち心地よいこころとからだの磨き方』、三笠書房、2020 ・アカリ・リッピー、『実践版!アーユルヴェーダ 365日こころとからだが整う、人生がきらめく智慧』、三笠書房、2022