個を活かす生命の科学「アーユルヴェーダ」(理論編)

2023.01.13

巷で評判のダイエット法を試したけど効果が出ない、身体にいいと言われているものを積極的に食べているのに体調を崩しがち、美容のサプリメントを飲んでいるのに肌がきれいにならない・・・

あなたはこのような経験がないでしょうか?

もちろん、本来あるべき正しい方法で行うことができていない、習慣化できておらず取り組む頻度にバラつきがある、腸内環境が乱れていてせっかく摂取した栄養がしっかりと吸収されていないなど、さまざまな原因が考えられます。
しかし、このようにあなたがコントロールできることだけがその原因であるとは限りません。

あなたがコントロールできない原因、その最も重要なものの一つが、「そもそもあなたの体質に合っていない」ということです。
身体が大きい人がいれば小さい人もいて、肌が強い人がいれば弱い人もいて、気が強い人がいれば弱い人もいます。
身体的、精神的な特徴というのは十人十色であり、人それぞれで違うものですよね。
それにもかかわらず、発酵食品は腸にいい、サプリメントを飲めば肌がきれいになる、糖質制限をすればダイエットできるといった一般化されたことが、果たして万人に当てはまるでしょうか?

どんな健康法であっても、効果が大きく出る人もいればあまり出ない人もいるということは簡単に想像できるかと思いますが、人によっては逆効果になり健康を害することもあるものです。
人は一人ひとり違うものである、このことを重視したアプローチが「アーユルヴェーダ」です。
そこで、今回は「アーユルヴェーダ」の理論についてご紹介したいと思います。

アーユルヴェーダとは?

アーユルヴェーダとは、サンスクリット語の「Ayus(生命)」と「Veda(科学)」を組み合わせた複合語であり、その名のとおり「生命の科学」と呼ばれています。
5000年も前からインドやスリランカを中心に活用されてきた伝統ある科学です。
「オイルプル」もこのアーユルヴェーダの技法の一つです。
アーユルヴェーダにおいて大切なことは、一人ひとりの体質の違いを考慮して、その人の体質に合った最適なアプローチをすることで健康を手にするという考え方です。

糖質制限するとダイエット上手くいくらしいよ、スピルリナのサプリメントでたくさんの栄養素が摂れて健康にいいらしいよ、といった外からの情報を取り入れる前に、まずは自分の体を知ってその体質に合った方法で取り組みましょうというアプローチをとります。

アーユルヴェーダでは、人間の生命は、「肉体」「精神」「感覚器官」「魂」の4つの柱で構成され、それらがバランスを保ちながら生命を保つと考えられています。
また重要な概念に「消化(アグニ)」というものがあります。
これは単に食べ物を消化するというにとどまらず、感情や考えなどの精神的なもの、五感で受け取った情報など、あらゆるものを取り入れて消化することをも指します。
このアグニのエネルギーが弱まって、十分に消化ができないとき、「未消化物(アマ)」が蓄積することになります。
アマが蓄積するとエネルギーの巡りが悪くなり、あらゆる病気などの形でその不調が表面化することになるのです。

このように、アーユルヴェーダにおける健康とは、
・「肉体」「精神」「感覚器官」「魂」の4つの柱がすべて正常な状態であること
・「肉体」と「精神」のバランスがとれていること
・「消化力(アグニ)」が強く、「未消化物(アマ)」が溜まっていないこと
の3つが非常に重要だとされていることがわかるのではないでしょうか。
これらのポイントを実現するために、アーユルヴェーダで抑えておく概念がありますので、以下でご紹介していきます。

すべてのものを形作る5大元素

アーユルヴェーダでは、すべてのものが5大元素から構成されていると考えます。

<性質>微小:微小あまりに微かなため、ほとんど意識されることはなく、空間と同一視されます。

<性質>軽、動、ざらざら:ガス状で風の性質を持っています。軽く、透き通っていて、乾いていて、分散します。

<性質>熱、軽、鋭、液体性:変化と変形の力。熱、乾燥、上へ向かう運動の性質があります。

<性質>冷、液体性、柔、滑らかさ:液体で冷たく、下に向かって流れます。水そのものの形はありません。

<性質>重、固体性、静:実体のあるもので、重さ、固さ、そしてわずかに下向きの運動といった性質があります。

これらの5大元素は身の回りのあらゆるところに存在していて、その比率もさまざまです。 この5大元素の比率の多様性やその属性が多種多様な生命体をつくり出し、常に変化し、そして影響し合っているのです。

例えば、人間の細胞においては、

」:細胞を占める空間に影響

」:細胞内の気体に影響

」:細胞を調整する代謝過程に影響

」:細胞内の液体や細胞質に影響

」:細胞全体の構造に影響

といったように、5大元素がそれぞれの役割を担っています。

東洋医学でも、アーユルヴェーダの5大元素に類する「五行説(木、火、土、金、水)」というものがありますが、これらを理解する上でも重要な概念になりますので、ぜひ覚えてみてください。

3つの生命エネルギー(ドーシャ)

アーユルヴェーダでは、5大元素をより簡単に理解できるようにした、3つの生命エネルギー(ドーシャ)という概念があります。

ヴァ―タ:「風」+「空」

 <性質>軽い、冷たい、乾燥した、荒い、微細の、可動の、透明の、分散的な、不規則な、刺激的な

ピッタ:「火」+「水」

 <性質>明るい、熱い、油性の、鋭い、液体の、すっぱい、刺すような

カパ:「水」+「地」

 <性質>重い、冷たい、油性の、遅い、粘性の、密な、柔らかい、静的な、甘い

このドーシャには、2つの大元素それぞれの性質、そしてその2つを組み合わせた性質があるとされています。

3つのドーシャは、私たちの体の中で特定の機能を持っていますが、この3つのドーシャが調和して働いてはじめて、心身の健康を手にすることができるのです。

そして、この3つのドーシャは、生活習慣や時間、季節などの環境によって絶えず変化するものであるということを忘れてはいけません。

私たち一人ひとりの体質は、この3つのドーシャのバランスによって決まります。

私たちは、3つのドーシャすべてを持っていますが、1つか2つのドーシャが優勢となることがほとんどです。

このようなドーシャのバランスがどのように決定されるかと言えば、この世に生を授かったときのお父さん、お母さんのドーシャの状態によるとされています。

お父さん、お母さんの細胞一つひとつにまで、ドーシャが影響を与えているのですね。

あなたが自分自身のドーシャの状態を知ることができれば、あなたの体質に合った最適な健康法を取り入れることができます。

誰にとっても良い健康法というものはなく、あなたにとって良い健康法を選択することが大切なのです。

そのため、お友達からコレを食べるとカラダにいいよと言われたり、SNSでコレが健康にいいよという情報を見聞きしたりして、それらを試して上手くいかなかったとしても、気にする必要はありません。

あなたはあなた自身のドーシャを知って、あなたの体質に合った運動、栄養、休養を取り入れて、無理のない健康法を実践していくことが大切なのです。 あなたのドーシャを知りたい場合は、「アーユルヴェーダ 体質診断」などのワードで検索すると多くの診断サイトを見つけることができますので、ぜひ試してみてください。

3つの性質(グナ)

肉体の基礎エネルギーがドーシャで表されるように、精神の基礎的な性質は3つの性質(グナ)で表されます。

サットヴァ(Sattva):純粋性

ラジャス(Rjas):激性

タマス(Tamas):鈍性

サットヴァは、ピュアな心の状態であり、柔和で安定していることから物事をフラットに捉えることができます。

ラジャスは、活動的な心の状態であり、情熱的で活発である一方で、感情に左右されやすく怒りなどにとりつかれやすくなります。

タマスは、不活発な心の状態であり、何においても楽なことに流れがちで、怠慢な状況に陥り、過去のことに執着しやすくなります。

中心にサットヴァ、左右にラジャスとタマスがあるという天秤を想像していただくとわかりやすいでしょう。

ラジャスに傾くことなく、タマスに傾くことなく、釣り合いのとれたサットヴァの状態であることが、基本的には良いとされています。

しかし、ドーシャと同様に、グナも常に変化するものであり、ストレスを感じるような環境に身を置いているとそのバランスは乱れてしまいます。 そのために、意識的にストレスから解放される環境を整備したり、ヨガや瞑想といったことに取り組んだりして、グナのバランスを保つことが大切になるのです。

一人ひとりの違いを理解して健康を考えよう

あなたのドーシャの割合は、日々どのように過ごすかによって絶えず変化しています。

たとえ生活習慣が一時的に乱れ、ドーシャのバランスを崩してしまったとしても、その改善方法を知っていれば、心身に不調が表れることなく、健康な状態を維持することは可能なのです。

あなたは他の人とは違う個体なのであり、他の人にとっていいことがあなたにとっていいことであるわけではなく、その逆もまたしかりなのです。

そのような違いはドーシャにより決定されます。

あなたのドーシャを理解することで、あなたにとって最適な健康法を取り入れることができる、それがアーユルヴェーダの真髄と言えるでしょう。

あなたのドーシャに合った最適な健康法を実践し、人生を活き活きとさせるためにも、今回の理論について理解を深めていただければ幸いです。

次回は、ドーシャ別の健康法をはじめとしたアーユルヴェーダの実践をご紹介したいと思います。 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>

・ジュディス・H・モリスン著、森田由美子訳、『本当に自分を取りもどすアーユルヴェーダ 新装版』、ガイアブックス、2014

・アカリ・リッピ―、『アーユルヴェーダが教える せかいいち心地よいこころとからだの磨き方』、三笠書房、2020 ・アカリ・リッピー、『実践版!アーユルヴェーダ 365日こころとからだが整う、人生がきらめく智慧』、三笠書房、2022