心と身体を浄化し、新たなエネルギーを取り戻す“ファスティング”(後編)

2023.09.29


心と身体をリセットし、健康や新しい自分の発見へと導いてくれるのが、近年注目を浴びている「ファスティング(断食)」。前回は、ファスティングの概要や効果についてご紹介しました。

今回は、ファスティングのマイナスの側面にはどのようなものがあるのか、そして、ファスティングをどのように実践すれば良いのかについてご紹介させていただきます。



ファスティングの問題点


一定期間食事を断つファスティングには、前回ご紹介したメリットがある一方で、以下のような問題点もあるため注意が必要です。


●栄養不足による体調不良を引き起こす

ファスティングを行っているときは、基本的に外部から栄養素を摂り入れることができないため、腸内細菌は体内にあるもの(膵液、胆汁、粘液等)をエネルギー源にするしかありません。エネルギー源が枯渇すると、腸の細胞分裂が活発に行われなくなり、水分や栄養素を吸収する腸の機能が低下してしまいます。水分が吸収されなくなるということは、飲み物を飲んでも体内に取り込まれず体外に排出される、つまり下痢を引き起こす可能性が高まるということを意味しています。これをデトックスや好転反応と捉える人もいますが、これは溜まった便ではなく、胆汁や腸内細菌の死骸が排出されていると考えられます。胆汁や腸内細菌の死骸は黒ずんでいることがほとんどであるため、身体に悪い老廃物を排出することができたと勘違いしてしまうかもしれません。


また、摂取カロリーの減少や血糖値の低下によって、頭痛、めまい、倦怠感、吐き気、集中力の低下、免疫機能の低下などが引き起こされる場合があります。脳の活動は、エネルギーのほとんどをグルコースに依存しているため、脳を効果的に機能させるためには十分なグルコースが必要です。血糖値が著しく低下すると、脳機能に支障をきたし、様々な認知的な問題や行動的な問題(調節障害、かすみ目、健忘症、行動異常、不安感など)を引き起こします。グルコースのちょっとした変化でも、思考や行動に大きな影響をきたす可能性も指摘されています。


●過食によるリバウンド

ファスティングを終えて、厳しい食事制限を行わなくなると、以前より食欲が強くなって食べ過ぎてしまう、いわゆる過食反応が起こる可能性があります。これにより、ファスティング前に比べて脂肪量が増加したり、体重が増加したり、ストレスが大きくなったりする可能性があります。実は、ファスティングは、カロリー管理や糖質・たんぱく質・脂質の割合に気を付けるといった比較的緩やかな食事制限と比べると、長期的には体重減少につながらないとされます。ダイエットを目的としてファスティングに取り組む人は、たとえ体重を減少させることができたとしても、ほとんどの場合ダイエット後の体重を維持することができません。私たちには恒常性維持機能が備わっており、急激な変化が起こると、それと同等あるいはそれ以上にその変化を元に戻そうとするチカラが働きます。食事を全く摂らないファスティングのように急激な変化を与えれば、それを元に戻そうとしてリバウンドするリスクがあることを理解することが大切です。


●ネガティブな感情を引き起こす

お腹が空いてイライラするといった経験は誰しもあるかと思います。ファスティングは、心理的に強いストレスを感じることがあり、不安やイライラなどのネガティブな感情を引き起こす可能性があります。それはときとして、破壊的な感情に繋がってしまうこともあります。自然と湧き起こる感情をコントロールすることは、意志力を要し、多大なるエネルギーが消費されます。エネルギーが不足すれば自制をすることができなくなり、感情をコントロールすることが難しくなってしまうのです。そもそも感情のコントロールには、グルコースが重要な役割を担っており、ネガティブな感情を抱かないようにするだけではなく、直接改善することもできるとされています。

低血糖は不安感やイライラ、神経過敏などのネガティブな感情と関連していることが研究により示されています。耐糖能(血糖値が高くなったときに正常値まで下げる能力)が低い人は、感情のコントロールがしづらい傾向があります。糖尿病患者は癇癪を起しやすく、情緒不安定になりやすいとされ、さらに耐糖能が非常に低い糖尿病患者は重度のうつ病や不安障害を発症する可能性が高いとされています。



ファスティングの実践


ファスティングは、その目的、方法、種類は様々ありますが、ここでは実践する際の大枠や一例をご紹介します。


ステップ1:計画を立てる

まずは、なぜファスティングに取り組むのか、どれくらいの期間ファスティングを続けるのかといった基本的な事項について決めましょう。特に注意したいのは、いきなり長期間かつ厳しい食事制限を行うようなファスティングは避けるべきということです。先にご紹介したデメリットが強く出てしまうリスクがあり、何よりも続かない可能性が非常に高いからです。『小さく始めて、大きく描く』。これはファスティングにも当てはまります。まずはあなたの身体がファスティングに適応するための経験・体験を積みましょう。

間食をやめて1日3食を規則正しくする(食事間の時間のファスティング)、食べ過ぎた翌日は半日ファスティングする、16時間ファスティングするなど身体への負担が小さく手軽に取り組めるところから始めると良いでしょう。あるいは、禁酒、禁煙といった健康を害する可能性の高い習慣を絶つ、炭水化物、動物性たんぱく質、食品添加物といった特定の食品を絶つといった種類のファスティングでも良いかもしれません。徐々に身体を慣らしていき、あなたの身体がどのような反応をするのか見極めながら、時間・期間を延ばしたり、種類を増やしたりしていきましょう。どうしても初めから長期間(数日~数週間以上)のファスティングに取り組みたいという人は、必ず医師や専門家の指導の下に行うようにしましょう。

なお、これまでに大病を患ったことがある方、標準体重を下回っている方、成長期のお子さんなどはファスティングを行うリスクが高いため、基本的にファスティングを行うのは避けた方が良いでしょう。


ステップ2:準備を整える

実際にファスティングを始める前には、準備が必要です。

まずは何と言っても体調を整えることが一番大切です。風邪をひいている、倦怠感があるなど体調不良のときにファスティングを始めてしまうと、症状を悪化させる可能性があります。また、現在通院している方、(女性の場合)妊娠中の方や生理中の方なども控えた方が良いでしょう。ファスティングに耐え得る健康状態になって初めて取り組めるものだと認識しましょう。健康状態が良好な方であっても、ファスティング中に何らかの症状が現れた場合には、直ちにファスティングを中断して医師の診察を受けるようにしましょう。

固形物の食べ物を長時間絶つファスティングを行う場合は、本格的なファスティングを始める前に、徐々に食べ物を減らしていくことが一般的です。新鮮な野菜やフルーツをメインにした食生活にして、その後ジュースやスムージーをメインにした食生活に移行するといった方法がその一例です。

ジュースやスムージーを用いたジュースファスティングを行う場合は、できる限り新鮮でオーガニックのものを選択し、スロージューサーなど熱が発生しづらいもので酵素の働きを最大限享受できるため、そのような食材や機材を準備すると良いでしょう。この他ウォーターファスティング(水断食)を行うときはナチュラルミネラルウォーターでできる限りミネラルバランスがとれたもの、酵素ファスティングを行うときは非加熱処理の酵素ドリンクを準備など、それぞれのファスティングの方法でメリット最大限享受できるよう準備が必要になるのです。


ステップ3:ファスティングを実践する

計画を立てて、準備を整えたら、いざファスティングの実践です。それぞれのファスティング方法に則って取り組むことになりますが、ここでは一例として「16時間ファスティング」についてご紹介いたします。


●16時間ファスティング

16時間ファスティングとは、その名のとおり1日のうち16時間をファスティング、つまり食べ物を摂らない方法です。裏を返せば、残りの8時間のうちに朝食・昼食・夕食の3食を摂る時間を決めて食事をするという方法でもあります。

例えば、午前10時に朝食を摂り、午後2時に昼食を摂り、午後6時までに夕食を摂り、それ以降は翌日の午前10時までは食事をしないといったパターンが考えられるでしょう。食事内容については、もちろん身体に良いものとされているものが好ましいですが、特に厳しい制約なく食事することができるのもこのファスティング方法の特徴です。

食事をしない時間について、飲み物を飲んでも構いませんが、できる限り余計な成分の入っていないナチュラルミネラルウォーターなどが好ましいでしょう。


ステップ4:ファスティング後の回復

ファスティングを実践した後には、回復期間が必要になります。デメリットでご紹介した「過食によるリバウンド」のリスクがあるほか、胃腸への負担が大きいことなどがその理由です。揚げ物などの高カロリー食は極力避けて、おかゆや味噌汁などの吸収に良いものを選ぶことで、胃腸への負担を少なくすることができます。ファスティングを始める前に徐々に慣らしていったのと同様に、ファスティングを終えた後も徐々に普段の食生活に戻していくようにしましょう。



ファスティングを上手に取り入れて身体をリセットしよう!


前回及び今回の2回にわたって、ファスティングについてご紹介してきました。
ファスティングは、まだまだ研究途上の段階にあり、その効果や安全性についてもすべてが解明されたわけではなく、研究結果や考察が異なる主張のものも少なくありません。それは強い宗教的な信仰心の有無であったり、評価指標の違いであったり、精神状態のベースラインの違いであったり、いくつかの要因が考えられます。人によって効果に差が出るということを念頭に、ファスティングを行う健康上の利点や有効性、あるいは危険性を考慮した上で、最適なファスティングを見出していく必要があります。

ファスティングを上手に取り入れて、生き生きとした心身を取り戻しましょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。


<参考文献>

・デイヴ・アスプリー、『シリコンバレー式心と体が整う最強のファスティング』、CCCメディアハウス、2022
・GrantM.Tinsley,PaulM.LaBounty、”Effectsofintermittentfastingonbodycompositionandclinicalhealthmarkersinhumans”、NutritionReviews,Volume73,Issue10,October2015,Pages661–674、https://academic.oup.com/nutritionreviews/article/73/10/661/1849182?login=false、2023年9月28日閲覧
・YirenWang,RuilinWu、”TheEffectofFastingonHumanMetabolismandPsychologicalHealth”DisMarkers.2022;2022:5653739、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8754590/、2023年9月28日閲覧