心と身体を浄化し、新たなエネルギーを取り戻す“ファスティング”(前編)

2023.09.08


9月に入り秋が少しずつ近づいてきましたが、まだまだ続く猛暑による影響で夏バテしてしまい食欲がない…という方も少なくないかと思います。そんな中でも忙しい毎日を過ごしているあなたの心と身体には、どれほどの負担がかかっているでしょうか?食生活の乱れやストレスにさらされることで、あなたが持っている真のチカラは鳴りを潜めてしまっているかもしれません。

心と身体をリセットし、健康や新しい自分の発見へと導いてくれるのが、近年注目を浴びている「ファスティング(断食)」です。ファスティングは、一般的にプラスの面が強調して伝えられており、やってみた方がいいよとお友だちに勧められたことがある方もいるかと思います。
しかし、ファスティングは、きちんとした知識がないままに自己流で行ってしまうと、逆にマイナスの効果が生じてしまう可能性がある、諸刃の剣となるものです。メリットとデメリットの両方を理解して、無理なく適切な方法で取り組むことが大切なのです。

今回の記事では、ファスティングの前編として、ファスティングの基本的な概念から科学的な結果に基づいたメリットまでご紹介したいと思います。これからファスティングを始めてみようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。



ファスティングとは?


「ファスティング」の意味

それでは、「ファスティング」とはどのようなものなのでしょうか?

「ファスティング(fasting)」とは、現在では“断食”と訳され、その名のとおり一定期間食事を絶つことを意味することが一般的です。その語源を辿ると、原始ゲルマン語の「fastanan」(保持する、守る)から始まり、この「保持する、守る」という意味は「自分自身を保持する、コントロールする」という意味へと派生し、さらには宗教的な行為である「禁欲を守る」という意味を指すようになりました。

このことからもわかるように、本来「ファスティング」は、飲食を断つという意味のみならず、闘争本能による争いごとを避けること、喫煙や性交渉といった欲を断つことなどにより、自分の身を清めて信仰心を高めるという意味でも使用されていました。ファスティングは、宗教的な行為として、ヒポクラテス以降の医学的な治療法として、あるいは文化的な行為として、幅広く活用されてきたのです。


現代社会の食生活

朝食は、英語で“breakfast”と言いますが、これは“fast(断食)”と“break(破る)”に由来するとされています。夜ごはんを食べてから睡眠を経て朝ごはんを食べるまで、「断食」行為が続くからこのように呼ばれていました。

しかし、現代社会における人々の食生活は大きく様変わりし、夜ご飯を遅い時間に食べたり、小腹が空いたときにお菓子を食べたりと、1日における断食状態(お腹の中が空っぽの状態)の時間が短く、消化器官が長時間稼働することになってしまっています。その意味では、寝る前に何かを食べて、胃の中に食べ物が入った状態で睡眠をとるとき、朝ごはんは、もはや”breakfast”とは呼ばないのかもしれません。

さらに、現代社会に特徴的な高カロリーの食事や長時間の座り仕事は身体の代謝に悪影響であり、肥満や糖尿病、心血管疾患、脳卒中、認知症等の発生率を年々増加させていると言われています。
このように、現代社会における健康の弊害となる事象に対して、自分自身をコントロールし、禁欲を守ることで心身のリフレッシュを図る、その方法として、今改めてファスティングが注目を浴びているのです。



ファスティングの効果とは?


それでは、ファスティングにはどのような効果が期待できるのでしょうか。


●デトックス効果(腸内環境が整う、免疫力が向上する、肌荒れが改善する等)

ファスティングを実践することにより、体内に蓄積した老廃物や毒素、便などの不要なものを排出する機能が高まり、腸内環境が整うと言われています。腸内環境が整うと免疫機能も向上させることができます。また飢餓状態(栄養源が枯渇した状態)で起きるとされている「オートファジー」は、体内の不要な物質を分解したり、栄養源をリサイクルしたりする自浄作用をもたらしてくれます。このように体内がキレイな状態になることで、様々な健康被害から身を守ってくれるのです。


●体重減少、体脂肪燃焼(ケトーシス)

一定期間以上の断続的なファスティングは、方法による多少の誤差はあっても、おおむね体重、体脂肪、総コレステロール、トリグリセリドを減少させることが研究により示されています。また、一部の研究において、断続的なファスティングは、体組成の改善効果が大きいことや血中脂質を低下させる可能性があることが示唆されています。
さらには、肝細胞内のグリコーゲンが枯渇したとき(ファスティング開始後12~36時間後)に、脂肪組織内の脂肪分解の速度が増加するとされています。脂肪分解によって生じる遊離脂肪酸は、エネルギー供給として脂肪酸由来のケトン体を増加させます。つまり、食事を制限することにより利用できるエネルギーが外部から得られなくなると、体内に蓄積された脂肪を取り出してエネルギーに変えて利用するのです。


●エネルギー産生の変化

ファスティングは、先に挙げた脂肪以外にも、体内のたんぱく質を分解してエネルギーを生み出します。たんぱく質は、アミノ酸で構成されている高分子化合物であり、私たち人間が生きていく上で、欠かせない栄養素の一つです。ファスティングによって、アミノ酸の含有量や種類が変化する可能性があり、ファスティング期間の長短がその含有量や種類に影響を与えるとされています。さらには、ファスティングは、熱産生遺伝子の発現を増加させることで熱産生を促進し、エネルギー消費を増加させることができます。


●Ⅱ型糖尿病リスクの低減

ファスティングにより、空腹時血糖値が低下し、インスリンレベルも有意に低下したという結果が得られたとする研究がいくつかあります。8週間の隔日ファスティングを行った研究では、肥満成人の空腹時血糖値は大幅に低下し、インスリンレベルも低下したというのです。その他の研究でも、8時間の時間制限ファスティング(10:00~18:00の間で自由に食事し、18:00~10:00の間で断食)を12週間、2日間の厳密な間欠的エネルギー制限に続いて5日間の習慣的な食事を12週間続けたファスティング、夕食を早めに済ませる時間制限ファスティング(食事できる時間を6時間とし、午後3時までに夕食を済ませる)を5週間、いずれの研究でもⅡ型糖尿病リスクを低減させるような徴候が見られたとされています。


●感情の強化

ファスティングは、それにより誘発される感情の強化にも影響しているということがわかってきています。ファスティングによって引き起こされる一部の神経栄養因子や神経伝達物質の変化が、神経新生を刺激し、シナプス可塑性を高めることができます。これにより痛みの感覚を調節し、認知機能と脳の老化防止能力を高めることができるとされています。
また、長期間のファスティングは、大きなホルモン変化を引き起こす可能性のある強い生理的刺激をもたらします。長期間のファスティングは、ドーパミンやノルアドレナリンといった興奮ホルモンを制御し精神を安定させるセロトニンの放出や代謝を増加させる可能性が示されています。さらには、特定の自己防御細胞ストレス耐性メカニズムを活性化して、グルココルチコイドやカテコールアミンの増加によってもたらされる潜在的に有害な影響を無効化してくれる可能性が示されています。このような現象が何によりもたらされているのかは研究途上ですが、脳内におけるぶどう糖の利用可能性の低下、レプチンやインスリンの消費、空腹感が要因の一つになっているのではないかと考えられています。

ここまでは長期間のファスティングによりもたらされる感情の強化をご紹介してしましたが、短期間のファスティングによってもたらされる感情の強化もあります。短期間のファスティングは、気分の向上を引き起こす可能性があり、これはポジティブな気分や活力の向上、ネガティブな気分の減少に反映されます。健康的な女性を対象に行った18時間のファスティング実験では、達成感や報酬、誇り、コントロールなどのポジティブな感情がもたらされる可能性があることがわかりました。また別の16時間ファスティングを行った実験では、恐怖感を低減させ、恐怖感が再発するのを防ぐ可能性が示唆され、その効果は少なくとも6か月間持続する可能性があるという考察がなされています。


●炎症の抑制、胃腸の自然治癒

実は普段私たちが摂取している飲食物は、それらを消化するために消化器官において消化活動が行われるため、多少なりとも炎症を引き起こします。1回の摂取量を少量にして摂取回数を増やすというダイエット方法が以前流行りましたが、常に体内で消化活動を行うということは炎症状態を悪化させるため、健康の観点からはマイナスの側面が大きい方法だったのです。その点において、一定時間消化活動を休止するファスティングは、炎症を治癒する時間を確保し、ひいては胃腸をはじめとした消化器官の自然治癒を促進してくれます。

以上、ご紹介した他にも、幹細胞の生成を促す、酸化ストレスによる老化を遅らせる、食べ物との関係を改善するなどの効果も期待できるとされています。ファスティングは、本来私たち人間が持っているチカラを取りもどす方法として、最適なものであるということをおわかりいただけたのではないでしょうか。




それでもファスティングはいいことばかりではない?


今回は、ファスティングについて、その概要やファスティングの効果についてご紹介しました。しかし、プラスの側面が強調されるファスティングですが、実はいいことばかりではありません。マイナスの側面をしっかりと把握した上で、ファスティングに取り組まなければ、せっかく健康や美容のために行っているつもりでも、逆に健康や美容を害してしまうこともあるのです。

では、ファスティングにはどのようなマイナスの側面があるのでしょうか?そして、ファスティングを正しく取り入れてメリットを享受するためにはどのような方法で行えばいいのでしょうか?このことについては、次回の記事でご紹介させていただきますので、楽しみにしていてください。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<参考文献>

・デイヴ・アスプリー、『シリコンバレー式心と体が整う最強のファスティング』、CCCメディアハウス、2022
・GrantM.Tinsley,PaulM.LaBounty、”Effectsofintermittentfastingonbodycompositionandclinicalhealthmarkersinhumans”、NutritionReviews,Volume73,Issue10,October2015,Pages661–674、https://academic.oup.com/nutritionreviews/article/73/10/661/1849182?login=false、2023年8月18日閲覧
・YirenWang,RuilinWu、”TheEffectofFastingonHumanMetabolismandPsychologicalHealth”DisMarkers.2022;2022:5653739、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8754590/、2023年8月18日閲覧