食べることは生きること

前回は空気、前々回は水の話をしました。
今回は食べることについて、話をしてみたいと思います。
一般的には、1か月食べないと死に至る、と言われているんでしたね。
そんな中、近年、「ファスティング」や「糖質制限ダイエット」のように、「食べない」健康法やダイエット法が流行っています。
人間の三大欲求のひとつである「食欲」。
その大きな欲に反して「食べない」のが健康にいい、ダイエットにいいという考え方です。
人間は食べなければ生きていくことができない。
にもかかわらず、なぜ「食べない」ことがいいとされているのでしょうか?
新型コロナウイルス感染症の影響で、健康について改めて考える機会が増えている今、「食」について見直してみましょう。

なぜ人は食べるのか?

人はなぜ食べないと生きていけないのでしょう。
それは、生きていく上で必要なエネルギーや栄養を食によって得ているからです。
歩いたり、走ったり、投げたり、蹴ったり、、、身体を動かすにはエネルギーが必要です。
心臓を拍動したり、呼吸をしたりといった不随意運動にもエネルギーが必要ですよね。
もっと言うと、けがを治したり、成長を促したりするにもエネルギーが必要ですよね。
そのような活動すべてにエネルギーや栄養が必要なんです。

もちろん、人間には体内で産出できるものもあれば、必須アミノ酸のように体外から取り込むことでしか得られないものもあります。
おそらく学校の授業でも習ったのではないでしょうか。
栄養素には五大栄養素があり、そのすべてに役割があるということも習いましたよね。
炭水化物は、身体活動のエネルギーになります。
たんぱく質は、身体の組織を形成したり、エネルギーになったりします。
ミネラルは、生体機能を調整したり、身体の組織を形成したりします。
ビタミンは、炭水化物、たんぱく質、脂質を調整します。
脂質は、身体の組織を形成したり、身体の熱やエネルギーとなったりします。

このことからも、炭水化物を抜くといい、脂質を取らない方がいいというような極端な健康法やダイエット法は、身体機能に何らかの支障をきたす、ということに気づかなければならないのです。
食べることは生きることなのです。

「食べない」健康法の目的は身体機能の正常化

では、なぜ「食べない」健康法やダイエット法がいいとされているのでしょうか?
それは、身体機能を正常化することが目的だと言えます。
現代人の食生活は、栄養バランスが偏っていたり、時間が不規則だったり、とにかく乱れています。
それにより消化器官が疲弊して本来の消化機能を発揮できなかったり、腸内環境が乱れ排泄されるべきものが腸に留まり続けてしまったりしているのです。
つまり、どんなに身体にいいものを摂り入れてもきちんと消化できず、腸で悪玉菌を増殖させてしまうんです。
これではもったいないですよね。
そこで、消化器官を休ませてその機能回復を図るとともに、溜まった排泄物を排出してデトックスしよう、これが「食べない」健康法の目的なんです。

これは、崩れてしまった身体機能を正常化して、本来のパフォーマンスを「元に戻す」ということであり、決して健康を「増進」するということではないんです。
やはり健康を「増進」していくには栄養バランスは欠かない、つまり食べないといけないということです。
本来的には、ファスティングのように数日間断食するといった極端なことをする必要はないと思います。
朝食は英語で「Breakfast」、つまり断食(fast)を破る(break)という意味ですね。
そう、食事の摂るのが規則正しい時間であれば、夜食べてから朝食べるまでの時間でファスティングをしているはずなんです。

身体機能を正常に戻すための断食の時間があるはずなんです。
しかし、夜ご飯が遅い時間になったり、夜ご飯の後にお菓子やおつまみを食べたりして、このあるべきファスティングの時間が取れなくなってしまった、だから数日間断食するような極端なファスティングをしなければ、身体機能が正常化できなくなってしまったと言えるでしょう。
何を食べるかも大切ですが、いつ食べるか(どれだけ消化器官を休ませることができるか)ということも大切なことなんですね。

なぜ美味しい食べ物はカロリーが高いのか?

ラーメンって美味しいよね?
飲みの席ではフライドポテトや唐揚げは欠かせないよね?
でもなんで美味しい食べ物ってカロリーが高いんだろう、そう思ったことはありませんか?
「脳を鍛えるには運動しかない!」の著者ジョン・レイティ教授は、来日記念セッションでその理由を次のように話していました。
「人間には節約遺伝子があり、遺伝子からの指令で一番カロリーの高いものに魅かれるようにできている。それは昔、狩猟採集の生活を送っていたとき、いつ食べられなくなってしまうかわからないから、食べられるときに食べよう、できる限りエネルギーを蓄えておこうとしていた。そのような本能の名残がカロリーの高いものを美味しいと感じさせているのだ」と。

このように考えてみると、美味しい食べ物はカロリーが高い、というよりも、カロリーが高いものを美味しく感じるようにできている、と言った方が正確そうです。
しかし皮肉なものですよね。
生きていくためにエネルギーが必要だから、本能がカロリーの高いものを美味しいと感じるようにさせているのに、近年ではカロリーの過剰摂取で身体機能を崩したり、食べないことで一度蓄えたエネルギーを消費しようとしたりしているのですから。

我々人間は、理性を持った生き物です。
本能のままに生きることも大事ですが、しっかりと理性でコントロールし、健康な心身を手に入れましょう。

食べ方を再考する

五大栄養素をはじめとして、各栄養素をバランスよく摂取する、これが大事であることは疑う余地もありません。
厚生労働省も日本人の食事摂取基準を定め、一般に公開しています。
学校の家庭科や栄養学では、各食バランスよく摂取しましょうと習うかと思います。
でも、現実的に毎日3食理想的なバランスの食事を摂取するのは難しいのではないでしょうか?
たまには外食もしたいし、出来合いのもので済ませたいと思うこともあるでしょう。
そこで、各食バランスよく摂ろうとするのではなく、一日を通して、場合によっては数日を通してバランスをとることを考えてみましょう。

この方法には、「食べ合わせ」を考えやすくなるというメリットもあります。
なぜ、食べ合わせが重要かと言うと、一緒に摂取すると相乗効果を生む栄養素がある一方で、消化の難易度を上げてしまい消化器官に負担をかける場合があるからです。
インドの伝統医学であるアーユルヴェーダでは、
・生のものと調理したものを一緒に食べてはならない
・種類の異なるたんぱく質、炭水化物を一緒に食べてはならない
・フルーツは他の食べ物と一緒に食べてはならない
といったように、消化器官に負担がかかる食べ合わせを挙げています。
(もちろん、以前の水の話のところでもご紹介したように、食事中や食前食後すぐに水を飲むと消化に負担がかかるので、できる限り避けましょう。)

このような食べ合わせを避けようと考えると、各食でバランスをとりながら何を食べたらいいのかわからなくなってしまいますよね。
そのため、少し長いスパンで栄養バランスをとるという視点も持ってみましょう。
もちろん一日で摂取基準を満たすことが理想なのかもしれませんが、一日偏った食事をしてしまっても健康を害することはほとんどありませんし、一日で細胞すべてが生まれ変わっているわけでもありません。
栄養のバランスをとること、これは単に栄養素のバランスをとるということだけではなく、同じ炭水化物でもごはん、そば、オーツ麦だったり、同じたんぱく質でもたまご、肉、魚、だったりと、いろいろな種類の食べ物から摂るように心がけましょう。
くれぐれも毎日同じ食事が続かないように気をつけてくださいね。

腸内環境を整えること

昨今の健康ブームでとても話題になっていたので、腸内環境が大事だということをご存知の方も多いと思います。
学者によっては、腸をセカンドブレイン(第二の脳)と呼ぶ人もいます。
腸内環境を改善することによって、多くの健康不良が改善されると言っても過言ではありません。
消化された栄養素の大半は、小腸から吸収されます。
腸内環境が乱れていたら、どんなに身体にいいものを食べても上手く吸収されなくなっていまいますよね。
また、身体に害を及ぼす菌などが腸に到達しても、腸内環境が整っていれば善玉菌が退治してくれます。

免疫力の6割~7割が腸に由来している、老化は腸から始まるとも言われています。
腸内環境を測る上で重要なシグナルとなるのが、やはり排泄物です。
排泄物の色が黒色を帯びていたり、そもそも便秘で排泄できない状況が続いていたりしたら、要注意です。
ヨーグルトや納豆、キムチなどの発酵食品、野菜などに多く含まれる食物繊維を積極的に摂取して、腸内環境を整えましょう。

情報リテラシーを身につけよう

人生100年時代の到来に向け、健康寿命を延ばすための情報で溢れかえるようになりました。
健康関連のテレビ番組や書籍などを通して、多くの健康情報に触れている方も多いと思います。
そんなとき心に留めておいてほしい一つの事実があります。
それは「ほとんどのものごとには陰陽(プラスマイナス)の両面が存在する」ということです。
特に健康産業が大きくなるにつれて、特定の健康商材を売り込むために不都合な情報(陰(マイナス))を隠して、有利な情報(陽(プラス))ばかりを強調するような番組や本が増えてきています。

権威のある人の話であったとしても鵜呑みにするのではなく、その裏にはどんな陰(マイナス)の面があるのだろう、とクリティカルにものごとを見る姿勢を身につけましょう。
陰陽(プラスマイナス)の両面を知った上で決断し、実践してみて、あなたの身体が示す反応がとても重要なのです。
情報リテラシーを身につけ、健康でイキイキした生活を送りましょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。