頭がボーっとする、だるさが抜けない、眼がかすむ…
このように最近疲れているなと感じたことはないでしょうか?
平日の疲れを休日にたくさん寝て解消しようとしても疲れがとれない、しっかりとお風呂につかってもだるさが残るという方は多いものです。
パソコンやスマートホンの普及によって、長時間同じ姿勢を続ける機会が多くなったり、常にブルーライトやたくさん情報にさらされたりして、知らず知らずのうちに疲労は蓄積していきます。
デジタル時代を生きる私たちにとって、「疲労」と向き合っていくことは不可欠なことなのです。
そこで今回は、「疲労」についてご紹介したいと思います。
「疲労」とは?
そもそも疲労とはどのようなものなのでしょうか?
日本疲労学会(分科会臨床評価ガイドライン委員会)によれば、疲労とは、「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」※1 と定義しています。
過度の肉体的活動については、激しい運動をしたり、強度の強い筋トレをしたりすると、身体に痛みを伴う疲労感を覚えるのでイメージしやすいと思います。
過度の精神的活動というのは、大事な商談で失敗が許されない状況や大勢の人の前で話をしなければならないという状況などで、極度の緊張状態が長時間続くとその状態から解放されたときに「疲れた」というようなシチュエーションをイメージしてもらうといいでしょう。
また、疾病によるものとは、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)をはじめとして、強い疲労感を伴う病気があるのです。
このように、単に「疲労」といっても身体的なものや精神的なもの、あるいは病気とされるものなど、その意味するところは広範にわたります。
そのため、疲労に対処するためには、その原因を特定することがとても大切になってくるのです。
疲労の分類
疲労の原因を特定するために、まず疲労の分類を知ることが必要になります。
疲労は大きく2つに分類されるとされ、一つは「末梢性疲労」、もう一つは「中枢性疲労」と呼ばれています。
<末梢性疲労>
運動やスポーツをした後には「疲れた」と感じることも多いと思います。
まさにその疲労が「末梢性疲労」と呼ばれるものです。
トレーニングを数セット取り組んでいると1セット目よりも2セット目、3セット目とセットを重ねるごとに、身体が思うように動かなくなる、最大限の力を出すことが難しくなり身体が持ち上がらなくなるという経験をしたことがあるはずです。
身体的に疲労が蓄積されて、本来の力が発揮できなくなってしまうのです。
運動やスポーツを行っていると、骨格筋の血流が制限されてしまいます。
そうすると身体に酸素が行き渡らなくなり、酸素を利用しないエネルギー代謝で運動に必要なエネルギーが生み出されることになります。
そうすると筋肉を収縮させる乳酸の中和が起こりづらくなり、乳酸が蓄積、筋肉のpHが低下する(酸性に傾く)ため、乳酸が蓄積、結果として思うように身体を動かせなくなると考えられてきました。
よく疲れを感じると、「乳酸がたまった」と表現しているのを聞いたことがあると思います。
しかし、最近の研究では「乳酸=疲労物質」というのは誤りであると指摘されています。
これについては、後ほどご紹介します。
<中枢性疲労>
一般的に、精神的な疲れや神経性の疲れを指して「中枢性疲労」と言われています。
極度のストレス状態にさらされているときのみならず、現代ではパソコンやスマートホンの長時間利用で視神経を酷使したり、ありとあらゆる情報にさらされ続ける脳がオーバーワークになったりして、疲労が蓄積してしまいます。
「脳疲労」と呼ばれることもあります。
疲労が蓄積した状態が続くと、後々大きな代償を払うことになりかねません。
末梢性疲労では、能力を超えて身体を動かし続けると、オーバートレーニングと言われる状態に陥り、大きなケガや疾病を負ってしまう可能性が高くなります。
中枢性疲労では、脳からの指令が上手くいかなくなり、自律神経や内分泌系、免疫機能など身体機能全体がバランスを崩し、あらゆるところに不調をきたす結果になるでしょう。
目的思考で疲労を捉えてみる、つまり「何のために」疲労を感じるのかを考えてみると、それはあなたの心身が悲鳴を上げていて、このまま続くと危ないということを伝えるため、ということができるのではないでしょうか。
いずれにしても、疲労を放置せずに、適切に対処していくことがとても大切なことなのです。
乳酸は疲労と関係ない!?
よく焼けるような感覚を伴う疲れを感じたときに「乳酸がたまった」という言い方をします。
これは、乳酸がたまったことによって疲労が生じたのだとする考え方、つまり「乳酸=疲労物質」という考え方に基づいていますが、近年の研究ではそれは誤りであると指摘されています。
乳酸は、全身に循環してエネルギー源として利用されたり、ピルビン酸に変換されながらミトコンドリアに影響を与えるホルモンのような働きをしたりするなど、むしろ運動やスポーツにプラスの効果をもたらす重要な役割を担っています。
それではこれまで乳酸が原因だとされていた、激しい運動やスポーツのときに生じる焼けるような感覚を伴う疲れの原因は何なのでしょうか?
その正体は、「H⁺(プロトン)」だとされています。
H⁺が蓄積することにより細胞内のpHが低下し(酸性に傾き)、解糖系のエネルギー産生を抑制、筋活動を阻害するのです。
このH⁺の蓄積の原因は、ミトコンドリア外でのATPの加水分解とされ、この現象を「代謝性アシドーシス」と呼びます。
このように、疲れの原因を乳酸とすること、「乳酸性アシドーシス」と呼ぶことは、実は誤りだったのです。
疲労の取り除き方―積極的休養(アクティブ・レスト)
さて、疲労を取り除くことがいかに大切であるかということはご理解いただけたと思います。
末梢性疲労では、筋肉の痛みをはじめとして比較的疲労を認識しやすく、対策の効果も実感しやすいでしょう。
一方で、中枢性疲労は物理的なものとして認識しづらく、知らず知らずのうちに心身に大きなダメージを受け、対策を講じても効果を実感しづらいかもしれません。
疲労を放置しておけば、心身の不調のみならず、自律神経やホルモンバランス、免疫機能といった様々な点において、不具合が生じてくることも考えられます。
そのため、疲労を取り除くために、しっかりとした「休養」が必要になってきます。
ここで言う「休養」とは、ゆっくり休んで疲労をとろうという(消極的な)休養はもちろんのことですが、積極的な休養(アクティブ・レスト)も大切になってきます。
「積極的な休養」って言葉が矛盾していない?と思うかもしれません。
これは、疲労を抱えているときにあえて身体を動かすことで疲労物質を取り除いてしまおうという休養方法のことなのです。
この「積極的な休養(アクティブ・レスト)」を含めて、疲労を取り除く方法をご紹介します。
「運動」で疲労を回復する
運動で疲労を取り除くときに意識してほしいのは、心地よいと感じられるくらいの強度で、身体の一部だけではなく全身に影響が及ぶ運動を選択することです。
最も手軽なものはウォーキングやジョギング、スイミングなどのいわゆる「有酸素運動」と呼ばれるものです。
アクティブ・レストの目的は、疲労物質を取り除くことなので、全身に血流を巡らせる、循環させるというイメージを持って、身体をゆっくりと大きくまんべんなく動かすようにしましょう。
また、デスクワークなどの座り仕事が多い人は、30分おきに、少なくとも1時間おきに立ち上がって軽くストレッチしたり、深呼吸をしたりするなど、身体を大きく動かすようにしてみましょう。
座って仕事をしている間も少しずつ体勢を変えてみたり、足を動かしたりして、長時間同じ姿勢を続けることのないようにしましょう。
同じ姿勢を続けていると、圧力がかかっている部分の細胞が壊死してしまいます。
「栄養」で疲労を回復する
バランスの良い栄養を心がけることが重要であることは言うまでもありませんが、疲労回復という観点では、ビタミンB群、たんぱく質などを意識的に摂取するとより効果的です。
ビタミンB群とは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンの8種類のことを指しますが、特にビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6を積極的に摂り入れてみましょう。
ビタミンB1は、豚肉、玄米、うなぎなどに多く含まれており、疲労回復のビタミンと呼ばれ、糖代謝を促進してエネルギーの生み出すサポートをします。
ビタミンB2は、納豆、卵、レバーなどに多く含まれており、ストレスに対処する役割を担ってくれます。
ビタミンB6は、レバー、マグロ、カツオなどに多く含まれており、低下した免疫機能を正常化し、倦怠感をとってくれるのに役に立つ栄養素です。
たんぱく質は、筋肉の超回復の際に必要不可欠なものです。
プロテイン(たんぱく質)と言えば、トレーニング後に摂取を推奨されていて、利用したことがある方も多いと思うので、イメージがしやすいかもしれません。
もちろん市販のプロテイン含有製品でたんぱく質を補うことも良いのですが、できる限り食事から摂取するべきであり、肉・魚類、大豆、卵、乳製品などを食生活に取り入れると良いでしょう。
「休養」で疲労を回復する
休養において最も大切なのが「睡眠」であることは、これまでの記事でもご紹介してきましたので、ぜひそちらの記事も参考にしてみてください。
睡眠のほかにも、疲労回復には温冷水シャワー、つまり温かいシャワーと冷たいシャワーを交互に浴びる方法も効果的です。
これは冷たいシャワーで血管をキュッと収縮させ、温かいシャワーで血管をジワッと拡張させることで、血流を良くすることができるのです。
筋トレで筋肉を収縮して弛緩してを繰り返して筋肉を鍛えるように、血管を収縮して拡張してを繰り返して血管を鍛えるようなイメージをしてもらうとわかりやすいかもしれません。
ただし、心臓の弱い方は、冷たいシャワーをいきなり浴びると心臓に負担がかかるため、徐々に慣らしてから行うようにしましょう。
疲労を解消して毎日に活力を!
今回は疲労とその対処法についてご紹介しました。
疲労に対処する最善の方法は、まず疲労をため込まないようにすることです。
そのためには、日々疲労をスッキリと取り除いておく必要があります。
積極的な休養、消極的な休養を併せて、日々の体調管理に努めていきましょう。
勤労が美徳とされてきた日本においては、「休む」ことが良くないというイメージを持つ人も多いかもしれません。
しかし、しっかりと休むことで日々の活動はより生産的になり、あなたの持っているポテンシャルが引き出されることでしょう。
疲労に対処して、活力のある毎日を送りましょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考文献>
※1 日本疲労学会、“抗疲労臨床評価ガイドライン”、https://www.hirougakkai.com/guideline.pdf、2023年2月19日閲覧
・G.Gregory Haff、N. Travis Triplett 編、篠田 邦彦、岡田准一監修、ストレングストレーニング&コンディショニング 第4版、ブックハウス・エイチディ、2018
・石井秀明、西田裕介著、“末梢性疲労モデルから中枢性疲労モデルへの仮説の移行”、https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/24/5/24_5_761/_pdf、2023年2月19日閲覧