今改めて考える妊活・不妊治療

2022.11.26

令和4年4月、いよいよ不妊治療の保険適用が開始されました。
これまで不妊治療を検討していた方にとっては、待望の制度だったのではないでしょうか?
子どもがほしいと願い、パートナーと取り組みを始めてからでないと、不妊であるか否かはわからないものです。
実際、日本産科婦人科学会では、「不妊とは、妊娠を望む健康的な男女が避妊をしないで性交渉をしているにもかかわらず、一定期間(1年というのが一般的である)妊娠しないもの」としています。
これから妊活を始めようと考えている方、妊活を始めたけどまだ1年は経っていないという方もいらっしゃるでしょう。
不妊治療が保険適用になったからといって、すぐに不妊治療を始めることがいいかというとそうではありません。
そこで、今回は不妊治療の保険適用が始まった今だからこそ、妊活・不妊治療について考えてみたいと思います。

不妊治療保険適用で何がどう変わった?

まず、今回の不妊治療の保険適用がどのような制度なのか理解しましょう。
実は、今回の制度が始まる前も、保険適用となる不妊治療はありました。
しかし、「現在、治療と疾病の関係が明らかで、治療の有効性・安全性等が確立しているもの」に限定されていたのです。
例えば、男性側に精管閉塞や先天性形態異常など原因がある場合の治療、女性側に子宮奇形やホルモン異常による排卵障がいや無月経などの原因がある場合の治療が保険適用になっていました。
原因不明の不妊や治療が功を奏しないようなもの、つまりタイミング法や人工授精などは保険適用対象外だったわけです。
保険の適用外となると治療費が10割負担になり、かつ1度や2度の治療で終わらないことが多い不妊治療は、取り組む方々にとって大きな経済的負担になっていたのです。
少子高齢化が叫ばれて久しいですが、出生率が年々低下している背景には、このようなことも一因になっていたと考えられます。
このような状況を解決すべく、今回の制度につながり不妊治療に対する保険適用の範囲が大きく広げられることになりました。
さて、具体的にどのような不妊治療が保険適用となったかを見ていきましょう。
<タイミング法>
排卵のタイミングに合わせて性交渉を行うように指導するものです。
基礎体温を測ったり、アプリでこれまでの月経を記録したりすることで排卵のタイミングを予測することができますが、排卵検査薬を使用してより正確に予測することもできます。
妊活や不妊治療において、最初のステップがこのタイミング法だと言えるでしょう。
<人工授精>
排卵のタイミングに合わせて、精子を直接子宮内に注入する方法です。
より卵子に近い場所に精子を送り込むことにより、受精する確率が高まります。
注入後は卵子と精子が出会うのを待つことになるため、自然妊娠にちかい不妊治療と言えるでしょう。
比較的安価で治療を受けられることも特徴です。
<体外受精>
卵子と精子を取り出したうえで体外で受精させ、その受精卵を子宮に戻して着床を促進する方法です。
タイミング法や人工授精で妊娠に至らなかった場合などに行われる不妊治療です。
<顕微授精>
活発な特定の精子を注射針等で直接卵子に注入して受精させる方法です。
体外受精の一種ですが、不特定多数の精子を卵子に振りかけるのが通常の体外受精であり、顕微授精は特定の精子を狙い撃ちする点で異なります。
ただし、直接注入したとしても必ずしも受精卵になるわけではないため注意が必要です。
<男性不妊の手術>
自力で精子を出せない場合に、手術で精巣内から精子を取り出す方法です。
取り出した精子は顕微授精につなげられます。
以上が今回の制度改正で対象となった不妊治療です。
これらの不妊治療の保険適用は事実婚のカップルも対象になる一方で、誰もが対象になるわけではありません。
<対象となる年齢>男性=制限なし
女性=43歳未満(治療開始時点の年齢)
<保険の適用回数>40歳未満の女性=子ども1人につき最大6回
         40歳以上43歳未満の女性=子ども1人につき最大3回
つまり、43歳以上の女性は不妊治療の保険適用がされず、全額自費負担となってしまうのです。
このご時世に女性を年齢で判断するなんて、と思われるかもしれませんが、生物学的に年齢と妊娠・出産は大きく関係しているのです。
加齢とともに身体機能が衰えていくように、卵子も老化してしまうのです。
子どもが欲しいと考えている方、特に2人、3人と複数の子どもを考えている方は、ライフプランから逆算して、早めに取り組み始めることが大切なのです。

不妊治療の前にできること

先程お話ししたとおり、不妊というのは一定期間、概ね1年間子どもができない状態を指します。
逆に言うと、なかなか子どもができない状態であっても、1年以内には自然妊娠に至るというケースもあるわけです。
そのために男性も女性もできる限り妊娠しやすい体質に整えておく必要があります。

○健康的な生活習慣
健康的な生活習慣というのは、これまでも再三お話ししてきた「運動」「栄養」「休養」の習慣のことです。
以前「男性に理解してほしい女性の「からだ」の話」で正常な月経周期についてご紹介しました。

月経とは、約1か月の間隔で起こり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血と定義されています。
約1か月の間隔というのは、月経周期(月経初日から次回月経の前日まで)のことを指しますが、「25日~38日の範囲」かつ「各周期の日数変動が6日以内」であるとき、正常な月経周期であると判断されます。
(「男性に理解してほしい女性の「からだ」の話」より)

月経はいわば子どもを宿すための準備であり、周期が乱れたり、異常な生理痛が来たりするなど、正常な月経になっていないということは、何かがおかしいと考える必要があります。
そしてそのような不調を改善するために、日頃の生活習慣を見直すようにしましょう。

<運動>
妊娠・出産はとても体力が必要になりますし、心身ともに負荷がかかるものです。
それほど激しい運動をする必要はありません。
ウォーキング、スイミング、ヨガ、ピラティス、ストレッチなど、日々取り組みやすいものから始めてみましょう。
心身のコンディションを整えるには、筋肉をつけたり、痩せたりすることを目的とするのではなく、全身の筋肉を刺激して、血流を良くすることを念頭に取り組んでみましょう。
習慣化するためには、まずは小さく始めること、そして運動する時間を毎日同じにすることを意識すると良いと思います。
心身ともに良好な状態になると、仕事の効率も上がりますので、ぜひ今日から始めてみましょう。

<栄養>
たんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルなど栄養バランスのとれた食事を意識しましょう。
特にダイエットに取り組んでいる方は注意が必要です。
ダイエット産業は飽和状態にあり、何か目を惹くポイントを強調するために極論が多く、心身の健康と引き換えに痩せる方法であふれかえっています。
様々な食材から、様々な栄養を取り入れるようにしましょう。
1日3食すべての栄養バランスをとろうとしたり、食べたいものを我慢したりする生活はすごくストレスがたまり、逆に健康を害する可能性もあります。
ある程度の「許し」を自分自身に与えることが大切です。
つまり1日あるいは1週間通して全体として栄養バランスをとる、食べたいものを食べて別で他の栄養素をとる、身体に良くないと思われるものを食べたら排出することにフォーカスするなどといったことを考えると良いでしょう。
また、24時間以内に同じ食事メニューをとらないようにすると、より多くの食材から栄養を取り入れることができるためおすすめです。
妊活に特化していうと、緑黄色野菜や納豆などに豊富に含まれる「葉酸」を積極的に取り入れると良いでしょう。

<休養>
朝起きてすぐでもスッキリせず眠気があったり、日中眠気に襲われたりするときは、睡眠の質が低下している可能性が高いです。
就寝直前までスマホを操作したり、強い光を浴びたりしないようにする、部屋を真っ暗にして寝る、できる限り胃に食べ物が残っていない状態で眠りにつくなど、睡眠の質を高めるよう取り組んでみましょう。
必要な睡眠時間は人によって異なりますが、最低でも7時間以上を確保するようにしておくと良いでしょう。

<デトックス>
身体に毒素をため込むのは想像以上に身体に悪いことです。
毎日排便するように腸内環境を整える、皮膚からも輩出できるように発汗する習慣を持つ、場合によってはファスティングで身体の状態をリセットすると良いでしょう。
妊娠してから子どもに毒素が流れ込むことのないように、妊娠する前にしっかりと毒素を排出しておきましょう。

○基礎体温を測りタイミング法の実践
基礎体温とは、女性が朝起きてすぐに横になったまま、舌の下に体温計を入れて測定する体温のことを指します。
月経は女性ホルモンにより起こりますが、そのホルモンの影響で体温にも変動をきたすのです。
月経が始まると排卵までの約14日間は、卵子を成熟させるホルモンが分泌されて体温が低い期間が続きます。
そして排卵が起こると、受精卵が着床しやすい子宮内膜の状態にする黄体ホルモンが分泌され、体温が高い期間が約14日間続きます。
この期間に妊娠が起こらなければ、分厚くなった子宮内膜がはがれ落ちて月経がくるのです。
このように基礎体温を測ると、今どのような状態であるかを把握することができ、排卵日を予測することができるのです。
現在では基礎体温や月経情報を入力することで排卵日を予測してくれるアプリもあるので、このようなアプリも活用してみると良いでしょう。
ただし基礎体温は、睡眠時間や部屋の温度、トイレに行ったかどうかでも差が出てしまいます。
できる限り同じ条件で毎日測定できるようにするためにも、生活習慣を安定させるのが大切なのです。

まずはできることから妊活を始めよう

不妊治療の保険適用がこの4月から開始となり、子どもを授かりたいと考える方にとっては良い環境が整いつつあると言えるでしょう。
しかし、無条件で全員、すべての不妊治療が対象となったわけではないのです。
そして今回保険適用対象となった不妊治療では妊娠せず、個別にカスタマイズされた不妊治療を行い保険適用外という方もいらっしゃるのです。
妊活や不妊治療は、決して一人で進めることはできません。
パートナーとよく話し合い、ふたりの未来について真剣に考えることがとても大切です。
子どもは何人欲しいですか?子育てや仕事の両立をどのようにしますか?教育費や生活費がどのくらい必要になりますか?
検討しなければならないことはたくさんあるのです。
日頃の生活を見直し、まずはできることから始めましょう。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<参考>
・公益社団法人日本産科婦人科学会、“不妊症”、https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=15 、2022年4月15日閲覧
・厚生労働省、“不妊治療について”、https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000768685.pdf 、2022年4月15日閲覧
・厚生労働省、“不妊治療に関する取組”、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/funin-01.html 、2022年4月15日閲覧